乳児期の特徴を踏まえた関わりについて
発育発達の曲線から外れない限りは、その乳児の
成長発達スピードに合わせた関わり
が大切。
不適当な接し方…
成長発達スピードの個人差に配慮しない不適当な接し方だと、乳児期の特徴である、
- 乳児の身体的形態・機能の成長発達
- 養育者との相互作用で獲得した基本的信頼を通じた人間関係の基礎の構築
に悪影響を及ぼす恐れがある。
乳児期の特徴
生涯の生活習慣を形成する非常に重要な時期のひとつ
乳児はこの時期に、循環器と免疫機能、運動機能の発達、睡眠リズムと食事習慣の形成、排泄のトレーニングという生涯を通じて必要とされる活動を学習する必要がある。
また、この時期にはBridgsが提唱する
情緒の分化も生じている時期。
乳児期の養育者の態度は乳児のその後の情緒発達に長期的な影響を与える可能性がある。
成長・発達の評価時注意点
- 評価の目的は、偏りや遅れを見つけて支援するためである
- 成長発達には個人差があること
- 出生からことに捉えること(その児なりに曲線を描いているかどうか)
→母子健康手帳に成長発達の達成時期を明記し記載をする - 評価される側の親の気持ちに配慮する
- 遅れがない場合も母に結果を伝え、母の自信につなげる
- 肯定的な表現方法で伝える
- 成長発達の様子を一緒に見ていくという姿勢は特に大切にしたい
身体的特徴の基礎知識
- 体重・身長
- 頭囲と頭蓋
- 歯
- 各臓器
- 反射・運動発達
体重と身長
体重増加の倍数
- 出生時の体重を1…生後3ヶ月で2倍、1歳で3倍
Ex)3→6→9kg - 月齢が低いほど体重増加が著しい
身長増加の倍数
- 出生時の身長を1…生後1歳~1歳半で1.5倍
Ex)50cm→75cm
パーセンタイル曲線(乳幼児発育曲線)
- 全体を100として小さい方から数えて何番目にあるかを示す値
- 10年ごとの乳幼児発育調査の結果から算出する。
- これが適正値だという意味ではない!
- 50パーセントタイルが中央値
- 3~97パーセントタイルから外れると発育に問題と評価される
(→精査を受ける) - 出生時からどのようなカーブを描いているかが評価の視点
カウプ指数
- カウプ指数 = 体重(g)/ 身長(cm)^2 × 10
- 乳幼児の発育指標
- 正常範囲は15.0~19.0
頭囲と頭蓋
頭囲
- 出生時:33cm→1歳:46cm
- 個人差が少ない
- 脳の発育や障害と関連するために確認する
- 脳の重量とともに著しく増加する
- 大泉門は1.2~1.6歳で閉鎖する
頭蓋
- 身体状況を示す指標
- 大泉門が膨起時は髄膜炎の可能性
- 大泉門の陥没時は脱水の可能性
歯
- 個人差が大きい
- 乳歯の萌出時期:生後6~7ヶ月(中切歯から始まる)
- 1歳で萌出がない場合は、病的原因の可能性がある
- 2.6~3歳頃:20本の乳歯が生えそろう
- 虫歯は永久歯よりも乳歯でより進行しやすい
(虫歯になりやすい歯を「哺乳瓶虫歯」という) - 永久歯の萌出時期:6歳ごろ
各臓器
スキャモンの発達曲線(各臓器の代表的な指標)
発達の速度は一定でなく、器官は同じペースで発達していない
神経型 | 脳・脊髄・視覚系・頭部計測値。8ヶ月頃:脳重量2倍。4~5才頃:成人の80%。 |
リンパ型 | 胸腺・リンパ節・アデノイド。10~12才:200%。20歳:成人レベル。学童期に晴れたり、アデノイドによりいびきが強まったりする。 |
一般型 | 全身・外的計測値(頭部除く)・呼吸器等・筋肉・骨格系 |
生殖器型 |
反射
新生児からの原始反射は神経系(中枢神経)の発達に伴い消失し、
運動機能の発達に向かう
吸啜反射
- 乳を吸う運動
- 7ヶ月頃消失(→離乳の始まり)
ルーティング反射
- 頬に手を触れるとその方向で触れたものを口で捉えようとする
- 7ヶ月頃消失
運動発達
発達の方向性・順序性(一般原則)は
①中心から末梢へ
②頭部から下(尾)部へ
粗大運動の発達
- 4ヶ月に首がすわり、6ヶ月に寝返り、9ヶ月にはおすわりとハイハイをし、11ヶ月につかまり立ち、15ヶ月には一人歩きする
微細運動:掴み方の発達
- 腕全体→手掌→指先の順に発達
- 3~4ヶ月頃から把握反射が消失
(→)つかもうとするが掴めないようになる。 - 5ヶ月には手のひら全体で掴むことができ、
- 1歳には指先を使って掴めるようになる
生理的特徴の基礎知識
- 呼吸・循環・代謝の変化
- 免疫機能の発達
- 睡眠パターンと質の変化
- 排泄の発達
- 授乳から離乳食への変化
呼吸・循環・代謝の変化
呼吸機能
- 呼吸数22~28回/分(平均)
→肺胞表面積は小さくなり、体重あたりの酸素消費量は増加するため、
呼吸回数を多くして酸素増大を図っている
脈拍・心拍
- 110~130回/分
→心拍出量が少なくなるため、脈拍・心拍は多くなる
血圧
- 80~90/60mmHg
→心拍出量が少なくなり、血管の弾力性が高いので、血圧は低くなる
体温
- 0~6ヶ月は37.5℃、6ヶ月以降は37.2℃
→新陳代謝が盛んで、皮脂脂肪組織層が薄く、体温調整と発汗機能が未熟であるため、体温が高く、環境温の影響を受けやすい
水分代謝
- 乳児120~150ml/kg/日、成人50ml/kg/日
→1日の体重当たりの水分必要量が多いため。 - 腎機能が成人並みになるのは2~3歳頃
免疫機能の発達
IgG
- 生後3~4ヶ月から生成量増加し、病原体に対する生体防御に対処
- 母性由来IgGは出生後徐々に減り、生後6ヶ月頃に消失
- 5歳で成人レベルに達し、これが主な免疫となる
→風邪ひくことが減る。 - 3歳頃に最も少ない
IgA
- 出生後から徐々に増加し、出生後にしばらく出る母乳は免疫面から見ても効果的
- 腸管系の感染防御をする
睡眠パターンの変化
乳児期は成人と睡眠リズムが違うので、大人が乳児の睡眠リズムの変化を理解
し、合わせていくことが重要
新生児期
- 睡眠と覚醒を繰り返す多相性睡眠
- 3~4ヶ月で夜間の睡眠が安定
→夜と昼の区別がつくようになるため。
(養育者がお世話するためにリズム合わせないといけないため、ここまでくるのに身体的・精神的疲労が大きい) - 5、6ヶ月頃、レム睡眠時に夜泣き(夜中に急に泣き出す現象)
→生理的要因、心理的要因、あるいは、生活リズムの調整、生理的欲求の充足、環境調整などが必要
夜泣きで困っている母親への支援の1つとして「夜泣きは睡眠リズムが確立する過程での一過性の現象であり、睡眠パターンの安定とともに消失する」という見通しを母親に伝えることも支援となる
小児看護学 古屋悦世教授
二相性睡眠
1~2歳頃、午前と午後の計2回の睡眠を取る。
→この頃になると日中の活動も活発になり、夜間の睡眠も長くなるので、よう
やく養育者も夜間にまとまって睡眠ができるようになる
単相性睡眠
5歳頃で成人と同じ睡眠パターンになる
睡眠時突然死症候群(SIDS)
- 明確な原因は不明
- 乳幼児の睡眠中に発症する疾患
- 原則としてそれまでに健康状態に問題のない1歳未満の子供に原因が特定されない突然死をもたらす症候群。
- 窒息などの事故とは異なる。
- 生後2~6ヶ月に多い
- 乳児期の死亡原因第4位へ[(H29)77人/年死亡者数]
- 年々減少傾向にあるのは啓蒙活動による知識の普及のためであると考えられ、SIDSは啓蒙活動で予防できると言われる
- うつ伏せ寝、人工栄養、家族の喫煙との関連が指摘される
- SIDSはうつ伏せと仰向けのどちらでも発症するが、寝るときはうつ伏せの方がSIDSの発生率が高いという研究結果がある
(→医学上の理由でうつ伏せ寝が勧められている時以外は、赤子の顔が見える仰向けにすることで、睡眠中の窒息事故防止としても有効となる)
排泄の発達
排泄機能は反射と随意的コントロールが担うが、
乳児は大脳皮質が未発達で、無意識に反射で排泄してしまう
排尿
- 新生児:反射的に20回/日、膀胱容量が20mL
- 6ヶ月:反射が抑制され、排尿時は泣くなどのサインが出る。10~15回/日で、40~50mL
- 1~2歳:8~12回/日で、50~80mL
排便
- 2~10回/日。母乳の方が便性が緩く多い
トイレットトレーニング
排泄の準備段階なので、大人が排泄に対する子供の感受性を高めるよう工夫す
る。気持ちいいことを教える。
授乳から離乳食への変化
授乳・離乳の支援ガイド
- 母子の関わりが健やかに形成されることを重要視
- 一人ひとりの子供の成長発達が尊重される支援を基本に
- 医療従事者の支援のあり方の基本的事項の共有化
→保健医療従事者が基本的事項を共有し、一貫した支援がなされるような考え方がまとまった。N’sも内容を把握し、支援すること。 - 授乳・離乳支援がより多くの場で展開され、健やかな成長発達を
- 授乳・離乳支援の基本的な考え方として、授乳・離乳食の進め方で母親の不安が大きくならないように、また、安心と安らぎの中で食べる意欲の基礎づくりのために2007年3月に厚労省が策定した。
- 特にガイド策定時に大切にされたのは「離乳時は特に個性が大きく影響するので、画一的な支援にならないように配慮し、母親の自信へつなげる支援ができる点」
- 育児支援の視点、母親の気持ちを受け止め、寄り添う支援の促進
- 食物アレルギーに関する支援の充実も盛り込まれた
- 画一的な支援にならないことが母親の自信へ(柔軟性ある表記)。
→日々の子供の様子を見ながら進める。子供の状況に合わせて勧めていくことが重要。 - 開始時期を5~6ヶ月に遅らせた。
離乳
- 母乳やミルクから幼児食へ移行する過程のこと
- 必要性:活動量が上がり、乳汁で栄養素の補給が困難のため、必要
- 必要な機能:咀嚼と嚥下の獲得、内臓機能の発達、食事への興味・関心!
- 開始の目安:押し出し反射が消失し、支えると座れ、食物への関心が出る頃(4ヶ月頃)
離乳の進め方の目安
- 離乳の開始から完了までを4段階として、食べ方や形態、量、口の機能について表にしている。あくまでも目安!
- 子供の食欲や成長、発達の状況に応じて調整することが前提
離乳の完了
- 食物を噛み潰すことができる
- 栄養素とエネルギーの大部分を食物から摂取できる状態
(単に母乳やミルクを飲んでいない状態ではない) - 12~18ヶ月頃において、1日2回の間食ができる
(身体の成長発達に伴い、活動量も増えるためこれらが欠乏するため、9ヶ月頃はCaと鉄の欠乏を離乳食で補うこと)
- 母乳は、以前は「断乳(離乳食が完了するころを目安に母乳を終わらせる)」を指導していたが、今は「卒乳」。赤子と母が満足する頃までたし、幅を持たせている
発達理論を用いた認知的特徴の説明
ピアジェの認知発達理論
- 特徴は「子供が世界をどう見ているのか」環境の影響とその適応について述べたこと
- 発達の順序は、不変で1段階を達成した後、次の段階へ進むこと
感覚運動的段階(0~2歳)
- 感覚器・身体活動によって、外界認知する
- 外界認知は相互作用と子供の知的好奇心に由来する。
触って舐めて認知する。乳児の発達を考えると子供がそれを触っても安全なようにし、子供の好奇心を尊重する!環境を整える! - 2歳頃に表象能力を獲得し始める
前操作的段階(2~7歳)
- 思考が自己中心的、アニミズム
具体的操作段階(7~12歳)
- 具体的事柄について論理に思考推理できる
形式的操作段階(12歳以上~16歳)
- 形式的・抽象的な水準での思考
言語の発達
発達理論を用いた情緒的・社会的特徴の説明
情緒の分化
- 2歳頃までには基本的な発達し、5歳頃には一通り揃い成人と同様になる
- 言葉が未発達な乳児のコミュニケーションとして、情緒は重要な役割を担う
- 養育者の関わりは乳児の情緒発達に長期に影響がある
- 養育者に一貫性があることが、情緒の発達に良い影響を与える、と言われている
- 乳児期はすべての情緒のベースとなっている
→乳児期養育者はその後の情緒発達に長く影響を与える可能性があることを示している - 社会的微笑(3ヶ月微笑)見られるようになる
- Eye to eye contact
マスクをして抱っこして微笑みかけても、笑う反応のことで、母親以外にも無差別に反応する - 3ヶ月微笑は、8ヶ月不安(分離不安)となる。
基本的信頼の獲得プロセスである。 - 「3ヶ月微笑→分離不安」のプロセスは、エリクソンの発達理論の信頼獲得にもつながっていく
- 分離不安(8ヶ月不安)
- 6ヶ月ごろより人見知りが始まり、母親が特別な人だと認識する
- 8ヶ月頃より養育者が自分の視野から消えると不安を示すようになる。後追い。母だけでなく、日頃から養育をになっている父や保育士にも同様の反応をする。
- 後追い…馴染みのない場面での養育者からの分離に強い反応(啼泣)をする
エリクソンの心理・社会的発達
- 生理的欲求の充足が基本的信頼の獲得に不可欠
- 不信感の獲得も、危険回避のためには必要
- ただし、不信感よりも基本的信頼の獲得が多くなされているべきである。
【課題と危機】 - この発達は母子間の相互の働きかけ(エントレインメント)で育まれる
愛着(アタッチメント)
まとめ
乳児期には取り組まなければならない成長発達が多数ある。
その過程で乳児と養育者の双方が疲れて、前進する速度を落とすことがあろうと無理はないと思う。それを物語るように、それぞれの成長発達は段階的に進む。
だから私たちが乳児と関わる際は、その乳児なりに右肩上がりの曲線を描いていることに着目して成長発達を評価し、その乳児の発達過程を見守り支えることが大切になるのだろう。
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